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Mac Studio M3 Ultra vs DGX Spark vs RTX 5090|ローカルAIの速度を公表値から計算する

M3 Ultra・DGX Spark・RTX 5090のメモリ帯域比較グラフ(当サイト作成)

本記事は、Mac Studio M3 Ultra 512GB・NVIDIA DGX Spark・RTX 5090 の3機種を、ローカルLLM(70Bクラス)・画像生成・動画生成の3つの用途で速度比較したものです。数値はすべて公表値と実測値からの計算に基づいています。

なお、AIがなぜ「読む」と「書く」で速さの決まり方が違うのか、という仕組みの解説は姉妹記事にまとめています。仕組みから知りたい方は、まず下の記事をご覧ください。

また、新型 Mac mini(M6)・Mac Studio(M5 Max/M5 Ultra)の全構成・価格と、発売された M5・M6 の AI 速度を M3 Ultra と比べた記事は、【価格・新製品編】にまとめています。

【仕組みの解説】AIはどう動くのか|「読む」と「書く」の2つの仕事・速度を決めるメモリ帯域の仕組み

目次

基本情報:3機種で70Bはどれくらいの速さで動くのか(コンテキスト別)

ここでは読者の検討対象として、Mac Studio M3 Ultra・NVIDIA DGX Spark・RTX 5090 の3機種に絞って基本情報を並べます。基準となるモデルは 70B(4bit量子化で約42GB)。さらに、扱う資料の長さを「短い(4千語=会話1回分)」「中(13万語=本1冊分)」「長い(100万語=小説150冊分)」の3つに決めて、それぞれの速度を計算しました。

3機種の基本情報

Mac Studio M3 UltraDGX SparkRTX 5090
AI演算(FP4)公表なし1,000 TOPS3,352 TOPS
メモリ帯域819GB/s273GB/s1,792GB/s
メモリ容量最大512GB(統一メモリ)128GB(統一メモリ)32GB GDDR7(GPU専用)
CUDAなし(Metal/MLX)ありあり
電力約250W(静音)240W575W(要PC全体)

出典は Apple・NVIDIA の公式技術仕様と、各社が公表したベンチマークです。

70B(4bit・42GB)はどの機種に載るか

  • M3 Ultra(最大512GB):載る。最大512GBまで拡張可能で、100万語コンテキストでも42GB+KV 320GB=約362GB が入る
  • DGX Spark(128GB):載る。1台で70B 4bit(42GB)+KV 40GB +余白でぎりぎり収まる
  • RTX 5090(32GB VRAM)載らない。70B 4bit は42GB で VRAM 32GB を超えるため、比較対象から除外

3つのコンテキスト別の生成速度(tok/s)

生成(段階3)は、1トークン出すたびに重み42GBとその時点までの作業メモ(KV)を読むため、コンテキストが長いほど速さが落ちます。次の表は、3機種の帯域と実効率0.68から計算した70Bの生成速度です。

機種短い(4千語)中(13万語)長い(100万語)
M3 Ultra(819GB/s)12.9 tok/s6.8 tok/s1.5 tok/s
DGX Spark(273GB/s)4.3 tok/s2.3 tok/s0.5 tok/s
RTX 5090(1,792GB/s)70B が載らないため測定不能

※ 読み込み(段階1と2)については、M3 Ultra が70Bで毎秒480トークンの実測あり。DGX Spark は8Bで毎秒10,256トークンの公表値から70B相当を換算すると毎秒約1,170トークンです。RTX 5090 は70Bを扱えないため比較対象外です。

まとめ:70Bを動かすなら、3つのコンテキストどれを選んでも M3 Ultra が最も速く、DGX Spark はその3分の1の速度。RTX 5090 は帯域こそ最速ですが、70B を載せるメモリ容量が足りず、比較対象になりません。

3大カテゴリー別の速度比較:テキスト・イメージ・動画

AIの速さは、扱う内容によって律速が変わります。テキストを書く仕事(LLM)、イメージを1枚生み出す仕事(画像生成)、イメージを360枚連続で生み出す仕事(動画生成)——この3大カテゴリーでは、勝つ機材が異なります。

カテゴリーと律速の一覧

カテゴリー入力 → 出力律速代表モデル
A テキスト系テキスト → テキストメモリ帯域GLM-5.3-Flash・DeepSeek-V4
B イメージ系テキスト → イメージ(1枚)演算性能(FLOPS)Stable Diffusion・Flux
C 動画系テキスト → 動画(イメージの連続+音声)演算性能+メモリ容量MiniMax H3・Seedance 2.5(APIのみ)

3機種別の実測・推定速度

A テキスト系:LLM 70B(4bit・42GB)4千語コンテキストでの生成速度

機種生成速度備考
M3 Ultra(819GB/s)12.9 tok/s帯域律速・70B可
DGX Spark(273GB/s)4.3 tok/s帯域が3分の1
RTX 5090(32GB VRAM)測定不能70Bが載らない

B イメージ系:Stable Diffusion XL(1024×1024)1枚生成

機種生成時間備考
RTX 5090約3.5秒/枚FLOPS 3,352 TOPS
DGX Spark約11.7秒/枚FLOPS 1,000 TOPS
M3 Ultra約87.6秒/枚実効約134 TOPS(近似)

C 動画系:MiniMax H3 pruned版(15秒動画・768p)

機種生成時間備考
RTX 5090約560秒(約9分)VRAM 32GB で pruned 版ギリギリ
DGX Spark約1,877秒(約31分)VRAM 128GB で余裕あり
M3 Ultra約14,008秒(約3.9時間)VRAM 512GB で余裕最大・ただし FLOPS が足りない

※ イメージ・動画生成の速度は、各機種の FLOPS 比(RTX 5090 を基準)から推定した近似値です。実際の速度は、使用するソフト(ComfyUI・MLX 等)の最適化度合いによって変わります。M3 Ultra の TOPS は Apple が公表していないため、読み実測からの近似値を使用しています。

用途別の結論

テキスト生成には M3 Ultra。帯域が速く、大モデルが載り、静音・省電力です。

イメージ生成・動画生成には RTX 5090。FLOPS が圧倒的に大きく、CG系のAIでは最速です。ただし大モデルのメモリ容量が足りず、電力も575WとPC全体の設計が必要です。

両方を1台で回したい場合は、M3 Ultra と RTX 5090 PC の併用が理想ですが、コストは約320万円(M3 Ultra 512GB 約282万円+RTX 5090 PC 約35万円)に達します。予算に応じて、テキスト生成中心なら M3 Ultra、CG生成中心なら RTX 5090 PC、という使い分けが現実的な選択になります。

何B のモデルが動くのか

もう1つの式で、載るかどうかが決まります。

  • 動かせる最大サイズ(B)= 実効メモリ(GB)÷ 0.6 ※4bit量子化

実効メモリという不確かさ

ユニファイドメモリの全量をGPUが使えるわけではありません。Appleはこの比率を公表していません。本記事では約75%と仮定します。

参考として、AMD は Ryzen AI Max+ 395 について「128GBのうち最大96GBをVRAMに変換できる」と明記しています。比率にすると0.75で、偶然ながら本記事の仮定と一致します。ただしAppleの値が同じである保証はありません。設定によって変わる可能性もあります。

この仮定のもとで、512GB構成の実効メモリは約384GBです。

モデル(4bit) 必要メモリ 512GB構成での理論速度
70B 約42GB 約19.5 tok/s
405B 約243GB 約3.4 tok/s
上限 約384GB 約640B まで

⚠ 上限には、文脈のぶんが入っていません

上の「約640Bまで」はモデルの重みだけの計算です。実際には、会話や文書の内容を保持するKVキャッシュが別にメモリを使います。

文脈が長くなるほど増え、条件によっては数GB〜数十GBに達します。長い文書を扱うほど、載せられるモデルの上限は下がります。上の数字は「文脈が短いときの上限」と読んでください。

影響するのは容量だけではありません。KVキャッシュは、1トークン出すたびに読み直されます。文脈が長くなるほど、1トークンあたりに運ぶ量が増えていきます。

具体的な数字で見てみます。最大1Mトークン(約104万語)を扱える GLM-5.3-Flash(320B・FP8)を、512GB の Mac Studio M3 Ultra に載せる場合です。重みが328GB、OSや作業領域の余白が20GBを占めるため、KVに使えるのは約112GB。1Mトークン分の KV は約44GB なので、FP16 のままで計算上は約269万トークンまで積めます。これは公式上限の 1M の2.7倍にあたります。512GB 構成なら、1M は余裕を持って載る設計ということが分かります。

ただし速度は別の話です。GLM-5.3-Flash は MoE のため、1トークンの生成で読むのは重み全体ではなく活性 18B 分(約18.5GB)と KV です。コンテキストが伸びるほど KV が厚くなり、131k で毎秒34トークン前後だった生成が、1M では毎秒13トークン前後に落ちる計算です。1M の資料を渡したときにいちばん時間がかかるのは、生成ではなく読み込みの総当たりのほうです。

本記事の式には、文脈の長さが入っていません。短いやり取りでは目安になりますが、数万トークンを入れた状態では、実測がこの値より落ちます。

いずれも計算値です。実際の帯域は理論値の6〜8割に落ちるのが一般的です。メモリコントローラの効率や、読み出しの並び方によって差が出ます。実機での数値はまだ確認できていません。

長すぎる資料を渡すと、どうなるのか

壁は3つあります。たいていは1つ目で止まります。

何が起きるか
壁1 モデルの上限エラーになるか、黙って切り捨てられる
壁2 作業メモKVキャッシュがメモリを食い尽くす
壁3 物理メモリ超過SSD へ退避して、待てない遅さになる

壁1 は、メモリの問題ではありません。モデルには「一度に受け取れる語数の上限」が設計として決まっています。8,000語・32,000語・100万語など、モデルごとに違います。これを超えたら、メモリがいくらあっても受け付けません。

⚠ 問題は黙って切り捨てられる場合です。渡したつもりの資料が読まれていないのに、AI は普通に答えます。読んでいない部分について、それらしい答えが返ってきます。長い資料を渡すときは、全部読まれたかを疑ってください。

壁2 は、上限の範囲内でも起きます。ここで大事なのは、溢れるのは資料そのものではないことです。資料の文字はごく小さい。溢れるのは、処理の途中で作られる作業メモ(KVキャッシュ)のほうです。ただしこの「資料の文字は小さい」も、長さによっては保てなくなります。資料本体の大きさは語数にほぼ比例し、100万語なら約8GB。重み42GB の2割に達するため、長い文書では「資料はごく小さい」とは言い切れなくなります

壁3 は、Mac では落ちるのではなく遅くなります。物理メモリを超えると SSD へ退避するためです。SSD はメモリより桁違いに遅いので、動いてはいるが待てない速さになります。固まったように見えて、実は動いている状態です。

なお①の計算そのものは、資料を数百語ずつに区切って順番に処理できます。それでも足りなくなるのは、作業メモを全部持ち続けなければならないからです。計算は分けられても、結果は捨てられません。

ですから実務では、長すぎる資料を丸ごと渡しません。分割して要約させ、その要約をまとめて渡します。あるいは質問に関係する部分だけを探して渡します。「全部渡す」を諦めるのが答えになります。

同じメモリ量でも、速度は7倍変わります

70B(4bit・約42GB)が載る機材を、同じ物差しで並べます。

機材 実効メモリ 帯域 理論速度
RTX PRO 6000(96GB) 96GB 1,792GB/s 約42.7 tok/s
Mac Studio M3 Ultra 512GB 384GB 819GB/s 約19.5 tok/s
MacBook Pro M4 Max 128GB 96GB 546GB/s 約13.0 tok/s
NVIDIA DGX Spark(128GB) 非公開 273GB/s 約6.5 tok/s
RTX 5090(32GB) 32GB 1,792GB/s 70Bは載りません
RTX 4090(24GB) 24GB 非公開 70Bは載りません
Ryzen AI Max+ 395 128GB 96GB 256GB/s 約6.1 tok/s

実効メモリが同じ96GBの3機種でも、理論速度は約6.1〜42.7と7倍前後の開きがあります。「載るかどうか」と「どれくらい速いか」は別の話、というのがこの表の要点です。ここは目的によって選ぶものが変わるところです。

なお RTX PRO 6000 には Workstation版と Server版があり、帯域は1,792GB/sと1,600GB/sで異なります。同じ名前でも中身が違う点はご注意ください。

表の下2行に注目してください。RTX 5090 の帯域は1,792GB/sで、この表の最上位である RTX PRO 6000 と同じです。それでも70Bは動きません。VRAM が32GBで、必要な約42GBに届かないためです。

RTX 4090 は24GBで、さらに足りません。なお NVIDIA は RTX 40系の帯域を GB/s で公開していないため、この欄は空けています。

速さの前に、載るかどうかが効きます。帯域が表の最速でも、容量で脱落することがあります。ユニファイドメモリの Mac が大きなモデルで選ばれるのは、ここが理由です。

AI専用機が、いちばん速いとは限りません

表の中で目を引くのが DGX Spark です。NVIDIA が AI 向けに設計した机上機で、演算性能は FP4・スパースありで最大1 PFLOPと公表されています。演算の数字だけ見れば、この表で最も高い部類です。

それでも 70B の生成速度は、表の下から2番目にとどまります。帯域が273GB/s だからです。MacBook Pro M4 Max の546GB/s の半分、M3 Ultra の819GB/s の3分の1にあたります。

演算性能が高いことと、文章生成が速いことは別の話です。DGX Spark は、それが最もはっきり出る例になっています。大きなモデルを載せて開発する用途と、速く書かせる用途とでは、見るべき数字が違います。

なお DGX Spark の実効メモリは空欄にしています。GPU が使える割合を NVIDIA が文書化していないためです。総量は128GBなので、70B(約42GB)は載ります。

読ませると、順位が入れ替わります

ここまでの表は、すべて②生成の速さでした。①読み込みで並べ直すと、話が変わります。

NVIDIA は DGX Spark の実測値を公開しています。Llama 3.1 8B(NVFP4)で、①読み込みが毎秒10,256トークン、②生成が毎秒38.65トークンです。

DGX Spark 1台で、読み込みが毎秒10256トークン、生成が毎秒38.65トークンと265倍の差があることを示した棒グラフ 図6 同じ1台・同じモデルでの速さ NVIDIA DGX Spark / Llama 3.1 8B ① 読み込み 10,256 tok/s ② 生成 38.65 tok/s ← 実際の比率どおりです 同じ機械、同じモデル。読み込みは生成の 265 倍です。 機械が遅いのではありません。仕事の中身が違うだけです。 NVIDIA 公表値(入力2,048トークン・バッチ1・NVFP4)

同じ機械、同じモデルで265倍の開きがあります。演算性能が1 PFLOP ある機材は①で圧倒的に速く、②では帯域273GB/sに縛られる。本記事で説明してきた2つの仕事の違いが、1台の中にそのまま出ています。

Mac 側はどうか。Apple の公表値では、M5(基本モデル・24GB)が 14B の dense モデルで、プロンプト4,096トークンから最初の1トークンまで10秒未満。毎秒に直すと410トークン以上になります。

同じ Qwen3 14B で、DGX Spark は毎秒5,929トークンです。読ませる速さには、10倍以上の開きがあります。②の表で下から2番目だった機材が、①では前に出ます。

測定条件は揃っていません。プロンプト長(4,096と2,048)、ソフトウェア(MLX と NVIDIA のスタック)、量子化の方式が異なります。また Apple は M3 Ultra での同種の数値を公表していないため、Ultra との比較はできません。桁の目安としてご覧ください。

長い資料を読ませる使い方なら、①の差は待ち時間としてそのまま出ます。短い指示で長文を書かせるなら、②の速い機材が効きます。どちらが速いかは、使い方を決めるまで決まりません。

①読み込みで、各チップを並べる

Apple は①読み込みについて、絶対値ではなく倍率を公表しています。いずれも LM Studio を使った Apple 自身の測定(2026年7月)です。

チップ直前世代との比同系 M1 との比
M6(Mac mini)M4 の 4.8倍M1 の 13.5倍
M5 MaxM4 Max の 3.9倍M1 Max の 10.7倍
M3 Ultra公表値なし約2.45倍(計算値)
M3 Max公表値なし公表値なし
DGX Spark倍率ではなく実測値を公表(10,256 tok/s ほか)
RTX 5090 / RTX 4090①の公表値なし(NVIDIA は DGX Spark のみ公開)

「M1 との比」を横に並べて比べてはいけません。基準がそれぞれ M1・M1 Max・M1 Ultra と別の機械だからです。13.5 と 9.8 を見比べて「M6 のほうが M5 Ultra より速い」とはなりません。(基準が違うものを並べて比べても意味がない、という例です)

M3 Max の①は、Apple が公表していません。M3 Ultra も単体の値はなく、M5 世代との比較での基準として登場します。表の2.45倍は、9.8 ÷ 4 で出した計算値です。M3 Ultra で読み込みの実測があるのは、70B 4bit で 480 tok/s(本記事の近似逆算の基準)です。

海外実測でも同じ順位:3機種の読み込みを数字で比べる

読み込みは演算性能で決まる、という本記事の理論は、海外の実測データとも一致します。2026年に公開された複数の実測(MLX・llama.cpp・vLLM の各計測)を整理すると、3機種の実効演算能力は次のとおりです。

機種根拠実効演算能力(FP16換算)
RTX 5090NVIDIA 公表 3,352 TOPS(FP4)約1,676 TFLOPS
DGX Spark(GB10)8B の prefill 10,256 tok/s(NVIDIA 公表)を逆算約164 TFLOPS
MacBook Pro M5 MaxQwen 3.5 27B の prefill 686 tok/s 実測(MLX・Neural Accelerators 込み)を逆算約37 TFLOPS

倍率に直すと、GB10 は M5 Max の約4.4倍、RTX 5090 は GB10 の約10倍です。読み込み(①)では演算回路の大きさがそのまま順位になるため、帯域で勝る M5 Max でも、この順位には届きません。

この差は、長い資料を渡したときの待ち時間としてそのまま出ます。40,000語のプロンプトを渡したときの「最初の1語が出るまでの時間」の実測は次のとおりです。

プロンプト長RTX 5090DGX SparkMacBook Pro M5 Max
8,000語1.1秒6.7秒20秒
40,000語5.6秒33秒100秒
128,000語18秒107秒320秒

待ち時間の比は約5.6倍・約18倍で、実効演算能力の比とほぼ一致します。読み込みは演算律速、書く(②)は帯域律速——この2つの律速が入れ替わるため、M5 Max は帯域 614GB/s で書くほうでは GB10(273GB/s)に勝つのに、読むほうでは逆転して負ける、という現象が数字で説明できます。

なお M5 Max の Neural Accelerators は効果があり、MLX を使うと M4 Max 比で読み込みが大幅に改善します(実測で prefill が約4倍改善した報告あり)。それでも NVIDIA の Blackwell 世代には届きません。データセンター向けに設計された行列積回路と、GPU コアの中に組み込んだ小さな演算器では、回路の規模が違うためです。

※ 出典: theaibench.ai(MLX・llama.cpp 実測)、presenc.ai(Time-to-First-Token 実測 2026)、NVIDIA 公表値。計測ソフト・量子化方式によって数値は変わります。倍率は桁の目安としてお読みください。

実測から読み込みの演算性能を近似で出す

Apple が①の絶対値を公表していないなら、こちらで計算してしまえば済むはずです。読み込みは入力が長いと計算律速になるため、「読み込みの実測 tok/s × 1トークンの計算量」から、実効の演算性能を近似逆算できます。1トークンの計算量は「パラメータ数 × 2」という近似を使います(70B なら 140 GFLOP、FP16 換算)。

llama.cpp の llama-bench を同一条件(70B・Q4_K_M・512トークンのプロンプト)で回した公開実測(SpecPicks 等の集計、2026年5月)から出したのが次の表です。

チップ① 読み込み実測(70B・pp512)実効計算力(FP16 換算)FP4 換算の物差しに直すと
M3 Max 16コア約140 tok/s約20 TFLOPS約39 TOPS
M4 Max 16コア約210 tok/s約29 TFLOPS約59 TOPS
M3 Ultra 60コアGPU約340 tok/s約48 TFLOPS約95 TOPS
M3 Ultra 80コアGPU約480 tok/s約67 TFLOPS約134 TOPS
DGX Spark8B で 10,256 tok/s(公表値)から逆算約164 TFLOPS約328 TOPS

読み取れることは3つあります。

  • 計算力そのものは DGX Spark が約2倍上です。Tensor Core と CUDA の本領はここに出ます
  • ただし Spark は公表 1,000 TOPS のうち約3分の1しか実効に出ていません。カタログ TOPS は sparse と最適化が揃った最高条件の数字です。実用の LLM 処理ではこの効率が現れます
  • それでも生成(②)は帯域律速で逆転します。同じ 320B モデルの生成で Spark は M3 Ultra の3分の1。計算力と実用速度が乖離するのが、この世代の読み方です

⚠ この逆算は ①トークンの計算量を「2×パラメータ数」と近似する ②実測の量子化(Q4_K_M)とソフト(llama.cpp/Metal)で測っている、という2つの仮定を含みます。ソフトの実装差で数値は大きく揺れるため、桁の目安としてお読みください。FP4 換算は FP16 の8倍という回路近似による換算で、Apple Silicon に FP4 専用回路はありません。

世代で伸びたのは、読み込みのほうでした

Ultra 系を世代でさかのぼると、意外な事実が出てきます。②は本記事の式による計算値、①は Apple の公表値です。

世代帯域② 生成(70B)① 読み込み(M1 Ultra 比)
M1 Ultra800GB/s約19.0 tok/s1倍
M2 Ultra800GB/s約19.0 tok/s公表値なし
M3 Ultra819GB/s約19.5 tok/s約2.45倍(計算値)

M1 から M3 まで、帯域はほぼ据え置きです。②は帯域で決まるため、70Bの生成速度だけなら M1 Ultra と M3 Ultra はほとんど変わりません。帯域が5割増しになるのは、次の M5 世代からです。

ところが①は違います。同じ4年で9.8倍この期間に伸びたのは、書く速さではなく読む速さでした。

②だけを見れば、扱うモデルが70B前後で収まり中古の価格差が大きいなら、旧世代にも余地があります。ただし①を含めると、その判断は変わります。長い資料を読ませるなら、待ち時間が桁で違います。

古い Mac で、長い資料が極端に遅くなる理由

「Mac は AI が遅い」という評判を聞くことがあります。ここまでの2つを重ねると、その中身が説明できます。

1つ目は、資料の長さです。Apple の測定は4,096トークンでした。日本語ならおおよそ数千文字ぶんです。ここに8倍の資料を渡すと、総当たりの組み合わせは8×8で約64倍になります。

2つ目は、世代です。行列積を専門に扱う回路(Neural Accelerators)が GPU に載ったのは M5 世代からで、M3 Ultra はこれを持っていません。読み込み(①)はこの回路の有無で大きく変わります。Apple の公表値では M5 Ultra の①は M1 Ultra の9.8倍で、M3 Ultra は約2.45倍(計算値)にとどまります。

長い資料と、古い世代。この2つが重なると、待ち時間は分単位になります。評判の中身は、多くがここです。②の生成が遅いのではなく、①の読み込みで待たされていた、というのが実際のところです。

具体的な秒数は、機種と資料の長さによって変わります。ここで示したのは、なぜ桁が変わりうるのかという理屈です。本記事では実測していません。

M5 世代で最も伸びたのが、この①でした。②の帯域は M3 Ultra 比で1.5倍ですが、①は4倍です(M3 Ultra を基準にした場合)。遅いと言われてきた部分が、いま最も大きく改善しています。

どのチップに、どのモデルが載るのか

「42GB」が何かを、はっきりさせておきます。AI が覚えた数字の集まり、つまりモデルの重みです。読ませる資料のことではありません。

70B というのは「700億個の数字を覚えている」という意味です。1個あたり約0.6バイトで持つので、掛け算すると約42GBになります。

モデル覚えている数字の数重み
8B80億個約5GB
14B140億個約8GB
30B300億個約18GB
70B700億個約42GB
405B4,050億個約243GB

この荷物を置く場所がメモリ(倉庫)で、GPU へ運ぶ道が帯域(配管)です。倉庫と配管を、チップごとに並べます。

チップ倉庫(最大メモリ)配管(帯域)70B は載るか② の速さ
M324GB100GB/s載りません
M3 Max(40コア)128GB400GB/s載ります約9.5 tok/s
M532GB153GB/s載りません
M632GB不明載りません不明
M5 Max(40コア)128GB614GB/s載ります約14.6 tok/s
DGX Spark(GB10)128GB273GB/s載ります約6.5 tok/s

倉庫に入らなければ、速さの話は始まりません。M3・M5・M6 の基本モデルは70Bが載りません。24GBや32GBの倉庫に、42GBの荷物は置けないからです。

M6 の配管は「不明」としています。Mac mini の構成によって153GB/sと170GB/sの2種類があり、どちらになるかを見分ける方法が確認できていないためです。推測では書きません。

Apple は倉庫を、NVIDIA は配管を大きくしています

NVIDIA のデータセンター用 GPU「Rubin」と並べると、方向の違いがはっきりします。

M3 Ultra は倉庫が大きく配管が細い、Rubin は倉庫が小さく配管が27倍太いことを示した図 図7 倉庫は Mac が大きい。配管は Rubin が太い。 M3 Ultra(Mac Studio・机の上) 倉庫 512GB 配管 毎秒 819GB ② 約19.5 tok/s Rubin(NVIDIA・データセンター用) 倉庫 288GB 毎秒 22,000GB ② 約524 tok/s 倉庫は Mac のほうが大きい。それでも配管は 18倍 の差。 Apple は倉庫を、NVIDIA は配管を大きくしています。

倉庫は Mac のほうが大きいのです。M3 Ultra が最大512GB、Rubin が1基288GB。大きなモデルを置くだけなら、Mac が勝ちます。

ところが配管は、毎秒819GB と毎秒22,000GB。約27倍の差があります。②の速さは、約19.5 tok/s と約524 tok/s になります。

倉庫が大きいと、大きなモデルを置けます。配管が太いと、速く書けます。Apple と NVIDIA は、別々の場所を大きくしているわけです。

⚠ Rubin はデータセンター用で、机の上には置けません。価格も桁が違います。ここでは伸ばしている方向の違いを見るために並べています。

①と②が、別々のチップに分かれ始めました

NVIDIA は Rubin 世代で、性格の違う2種類の GPU を出しました。

メモリ特徴
Rubin288GB の高いメモリ(HBM4)配管が毎秒22,000GB
Rubin CPX128GB の安いメモリ(GDDR7)計算が30ペタフロップス、総当たりが3倍速い

CPX のほうは、高いメモリを使っていません。そのぶん計算を強くしています。NVIDIA はこれを「とても長い文章を読むための、新しい種類の GPU」と説明しています。

とても長い文章を読む。これは①のことです。そして「総当たりが3倍速い」というのは、図2 のマス目の仕事が3倍速いという意味です。

①が得意なチップと、②が得意なチップ。2つの仕事が、2つの部品に分かれ始めています。本記事で説明してきた区別が、そのまま設計に出てきたかたちです。

⚠ NVIDIA の発表文は「①は計算で決まる、②は帯域で決まる」とは書いていません。ここは本記事の読み方です。ただし①向きに計算を厚くして安いメモリを積み、②向きに高いメモリを積む、という作り分けになっています。

注意点

① 4台つないでも、4倍にはなりません

Apple は「4台構成で単体比 最大 3倍」と説明しています。台数は4倍でも、伸びは最大でも3倍。つまり効率は最良の場合で約75%、実際にはそれ以下になります。

なぜ台数どおりに伸びないのか。一因は配管の細さと考えられます。Thunderbolt 5 の120Gb/sは毎秒15GB相当で、本体のメモリ帯域819GB/sの約55分の1です。

⚠ ただしどれくらい影響するかは、分け方によって変わります。層ごとに分ける方式なら台数をまたぐ通信は少なく、層の中で分ける方式なら通信が増えます。「配管が細いから必ず律速する」とは言い切れません。確かなのは、Apple 自身が「4倍ではなく最大3倍」と言っていることだけです。

台数を増やす目的は、速度より容量と考えるのが自然です。単体に載らない大きさのモデルを、2TBのメモリプールに載せる。それが4台構成の意味です。報道によれば5台以上はリング接続になり、効率はさらに落ちるとされています。

② 512GB構成は、まだ選べません

出荷は10月下旬とされており、現時点では構成の選択自体ができません。裏を返せば、実機のレビューが出そろってから判断する時間があるとも言えます。

③ 「4.3倍」は演算性能の話です

この「4.3倍」は、次世代 M5 Ultra が M3 Ultra 比で公表しているピークAI演算性能の話であり、生成速度そのものではありません。帯域で比べると1,200÷819で約1.5倍です。この2つの数字は、別のものを測っています。本記事の基準機は M3 Ultra 512GB ですが、読み込み重視なら M5 世代の登場を待つ選択肢もあります。

④ 電力は強みですが、日本では条件が違います

Apple は4台構成が標準的な壁コンセント1つで動くと説明しています。ただしこれは米国の基準(120V/15A)での話です。日本の一般的な家庭用コンセントは100V/15Aで、上限が異なります。4台構成を検討する場合は、設置場所の電源容量を先に確認してください。

⑤ 読み込みは、2回目以降を省ける場合があります

最初の1トークンまでの時間は演算性能で決まるため、モデルが大きいほど待ち時間が伸びます。これを丸ごと減らす仕組みがあります。

プロンプトキャッシュと呼ばれるものです。前回と先頭が一致している部分は計算し直さず、結果を使い回します。同じ資料に繰り返し質問する使い方では、効果が大きくなります。

ただし効くのは、先頭が一文字も違わない場合だけです。指示の冒頭に日付を書くと、毎日変わるため使い回しが無効になります。変わらないものを先に置き、変わるものを後ろに回す形が有利です。

⑥ 生成速度の上限を、部分的に超える方法があります

本記事の式は、1トークンごとにモデル全体を読み直すことを前提にしています。この前提を崩す手法があります。

小さなモデルに候補をまとめて出させ、本体のモデルが一括で検証する方式です。投機的デコードと呼ばれます。読み直しの回数が減るため、帯域から計算した上限を上回る場合があります。

効果はモデルの組み合わせと入力内容によって変わります。常に速くなるものではありません。

⑦ 数値はソフトウェアによって変わります

本記事で引いた Apple の測定値は、MLX を使ったものです。同じ Mac でも、別のソフトウェアでは値が変わります。

とくに読み込み側は、実装による差が出やすい部分です。他の環境の数値と比べる場合は、測定に使ったソフトウェアを揃えてください。

⑧ 現時点で分かっていないこと

  • 実機の測定値:発売前のため、生成速度の実測は確認できていません
  • 実効メモリの比率:GPUが使える割合をAppleは公表していません。本記事の75%は仮定です
  • 日本での価格:公式ストアの表示をご確認ください
  • 長時間動かしたときの挙動:発熱による速度の変化は、実機が出るまで分かりません

不明な点は埋めずに、そのまま残しています。

買うか、借りるか

大きなモデルを動かす選択肢は、手元の機材だけではありません。クラウドのGPUを時間単位で借りる方法もあります。どちらが得かは、使う時間で決まります。

  • 損益分岐(か月)= 本体価格 ÷(1か月の利用時間 × クラウドの時間単価)

たとえば月に数時間しか使わないなら、借りるほうが長く安く済みます。逆に毎日動かし続けるなら、買い切りのほうが早く元が取れます。時間単価は提供元ごとに大きく違うため、検討される方はご自身の使い方と、利用予定サービスの料金表を突き合わせてみてください。

手元に置く利点は費用だけではありません。データを外に出さずに済むこと、通信の遅延がないこと、使いたいときに待たないこと。ここは価格表に出てこない部分です。

よくある質問

Q. 512GBあれば、どんなモデルでも動きますか。
4bit量子化で約640Bまでが計算上の上限です。8bitにすると上限はおよそ半分以下になります。それを超えるものは、複数台をつなぐ構成が必要になります。

Q. RTX PRO 6000 のほうが理論速度が高いなら、そちらでは。
96GBを超えるモデルは載りません。400B級を1台で扱いたい場合は、選択肢から外れます。使うモデルの大きさが先で、速度はその次という順番になります。

Q. 数字はどこまで信用できますか。
本記事の数値は、各社が公表した帯域とメモリ容量から計算したものです。実測ではありません。実際の帯域は理論値の6〜8割に落ちるのが一般的で、下振れする前提でご覧ください。

Q. 256GB構成では足りませんか。
70B(4bit・42GB)までなら256GB構成で載ります。512GBが要るのは、320B級のFP8(重み328GB)や100万語の長文脈を扱う場合です。400B級を狙うなら512GB構成を選んでください。


Mac Studio M3 Ultra 512GB の特徴は、速度そのものよりも「512GBの容量と819GB/sの帯域を、1台で両立している」点にあります。個人が購入できる製品の範囲では、同じ条件を満たすものは当サイトの調べでは見あたりません(データセンター向けの製品は対象外としています)。一方、70B以下で足りるのであれば、より安い選択肢が複数あります。

実機の数値が出そろったら、本記事の計算と突き合わせて検証します。

Apple公式ストアで Mac Studio の最新価格を確認する

本記事はメーカー公式情報・販売ページ・公開されている情報の調査に基づいて作成しています。

結論:3機種の使い分け

テキスト生成(LLM)中心なら、Mac Studio M3 Ultra 512GB。帯域が太く、大モデルが載り、静音・省電力です。動画生成は遅いものの、テキストの生成・長文の読み込みでは3機種中もっとも実用的です。

イメージ生成・動画生成中心なら、RTX 5090。演算性能(FLOPS)が圧倒的に大きく、CG系のAIでは最速です。ただし大モデルのメモリ容量が足りず、電力も575WとPC全体の設計が必要です。

DGX Spark は、どちらかに振り切るなら中間です。メモリ128GBで70Bが載り、CUDA環境もある一方で、帯域が273GB/sと細いため生成速度は出ません。「1台で開発も試すこともしたい」場合に、両方の性質をある程度持つのが強みです。

両方を1台で回したい場合は、M3 Ultra と RTX 5090 PC の併用が理想ですが、コストは約320万円(M3 Ultra 512GB 約282万円+RTX 5090 PC 約35万円)に達します。予算に応じて、テキスト生成中心なら M3 Ultra、CG生成中心なら RTX 5090 PC、という使い分けが現実的な選択になります。

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